従業員を1人雇うといくらかかるか|給与以外に発生する費用の全体像

従業員採用時のコスト

「月30万円くらいなら払える」と考えて採用に踏み切り、後から資金が思ったより減っていることに気づく。中小企業でよくある展開です。

給与30万円の人を雇うと、会社が負担するのは30万円ではありません。社会保険料、賞与、採用費、環境の整備。合わせると年間500万円前後になります。月あたりで見ると40万円を超える計算です。

この記事では、従業員を1人雇うときにかかる費用を項目ごとに整理し、採用に踏み切る前に確かめておきたいことをまとめます。

目次

給与以外にかかるもの

まず全体像を示します。月給30万円、賞与は年2か月分という条件で見ていきます。

項目年間の金額
給与360万円
賞与(2か月分)60万円
社会保険料の会社負担約63万円
労働保険料の会社負担約4万円
採用費20万円から100万円
環境の整備20万円から30万円
合計(初年度)約530万円から620万円
合計(2年目以降)約490万円

給与の総額420万円に対して、実際の負担は初年度で530万円を超えます。給与だけを見ていると、この差の100万円以上が視界に入りません。

社会保険料の会社負担

いちばん大きいのが、社会保険料の会社負担分です。

健康保険と厚生年金保険を合わせて、給与と賞与の合計額のおおむね15パーセント程度が会社の負担になります。料率は年度によって改定され、健康保険料率は都道府県によっても異なるため、正確な数字は協会けんぽや加入している健康保険組合の料率表で確認します。

予算を組む段階では、この15パーセントを目安に置いておけば足ります。

給与と賞与の合計会社負担の目安
300万円45万円
420万円63万円
600万円90万円

なお、社会保険料は労使折半が原則です。従業員の給与から天引きされる分と同額を会社が負担する構造になっています。

労働保険料の会社負担

雇用保険と労災保険を合わせて労働保険と呼びます。

保険負担
雇用保険会社と従業員の双方が負担。業種により料率が異なる
労災保険会社が全額負担。業種により料率が大きく異なる

労災保険の料率は業種による差が大きく、事務所などでは低く、建設業や林業では高くなります。自社の業種の料率は、厚生労働省が公表している労災保険率表で確認できます。

金額としては社会保険料ほど大きくありませんが、年度更新の時期にまとめて支払うため、資金の予算に入れておく必要があります。

採用費

人を採るまでにかかる費用です。方法によって金額が大きく変わります。

方法費用の目安
ハローワーク無料
求人媒体への掲載20万円から50万円
人材紹介会社想定年収の30パーセント前後(年収400万円なら120万円)
自社サイトでの募集制作費のみ
知人・従業員からの紹介紹介料を設定する場合はその金額

人材紹介会社を使うと、それだけで100万円を超えます。急いで採りたい場合の選択肢ではありますが、初年度の負担は重くなります。

見落としがちなのが、採用にかかる時間です。求人票の作成、応募書類の確認、面接、条件の調整。社長や既存の従業員がこれに使う時間は、金額に表れませんが確実にコストです。

環境の整備

働いてもらうために必要なものを揃える費用です。

項目費用の目安
パソコン15万円から25万円
デスク・椅子5万円から10万円
ソフトウェアのライセンス年3万円から10万円
携帯電話端末代と通信費
制服・作業着・安全具業種による
事務所の増床手狭になれば発生

このうち、事務所の増床は金額が大きくなります。1人増やす程度なら既存のスペースで足りることが多いのですが、何人か続けて採用すると移転を検討する段階が来ます。そのときは家賃という固定費が上がることになります。

教育にかかる時間

金額としては表れませんが、実質的にいちばん大きいのがここです。

入社してすぐに戦力になる人は多くありません。業務を覚えるまでの数か月は、教える側の時間も取られます。社長が教えるなら、その時間は本来の業務から引かれます。

期間状態
最初の1か月教える時間が業務時間の相当部分を占める
2か月目から3か月目独力でできる業務が増えるが、確認は必要
4か月目以降一定の戦力になる
半年から1年任せられる範囲が広がる

この期間、会社全体としての生産性は一時的に下がります。人手不足で疲弊しているときに採用を決めると、この期間を乗り切れずに双方が苦しくなることがあります。

余裕がまったくない状態での採用は、思ったより難しいというのが実感です。

固定費が増えるということ

金額の話とは別に、押さえておきたい性質があります。人件費は固定費であり、簡単には戻せません。

売上が下がったとき、外注は止められます。広告も止められます。しかし、雇った人の給与は減らせません。日本の労働法制のもとでは、解雇のハードルは高く設定されています。

つまり、採用を決めるということは、売上が下がっても払い続ける費用を増やすということです。

必要売上がどれだけ上がるか

具体的に計算してみます。固定費5,060万円、限界利益率70パーセントの会社を例にします。

固定費赤字にならない売上
採用しない5,060万円7,229万円
1名採用(年500万円)5,560万円7,943万円

必要売上が714万円上がります。給与と社会保険料で500万円の増加が、必要売上では714万円の増加になるのは、限界利益率で割り戻されるためです。

この714万円という数字が現実的に届くかどうか。ここが判断の分かれ目になります。届く見込みがないまま採用すると、赤字が構造的に固定されます。

判断する前に確かめること

採用に踏み切る前に、次のことを確かめておくと判断がしやすくなります。

この人が生む売上、あるいは手放せる業務

新しく採る人が直接売上を生むのか、既存の人の時間を空けるのか。どちらでも構いませんが、効果を金額に置き換えておきます。

採用の目的効果の測り方
営業を増やす1人あたりの想定売上
制作・施工の人員を増やす対応できる案件数の増加分
事務を任せる社長や既存社員が空ける時間の価値

事務職の採用は効果が見えにくいのですが、社長が事務に取られていた時間を営業に回せるなら、その時間の価値で測れます。

外注で試せないか

判断に迷うなら、まず外注で回してみるという順序があります。

段階内容
第1段階業務の一部を外注に出す
第2段階外注費が毎月継続して発生するようになる
第3段階外注費が人件費に近づいてきたら採用を検討する

業務量が月によって大きく動くなら、外注のままのほうが合理的です。逆に、毎月安定して外注費が発生していて、その額が雇った場合の人件費に近づいているなら、採用したほうが安くなる可能性があります。

資金の谷と重ならないか

採用すると、給与の支払いが毎月発生します。加えて、社会保険料は翌月末に出ていきます。

資金の予算を作っているなら、採用後の月末残高を計算し直します。もともと資金が細くなる月があるなら、そこに給与の支払いが上乗せされることになります。

パートや時短という選択肢

正社員を1名増やす前に、パートタイムや時短勤務という選択肢もあります。

形態特徴
正社員固定費が大きく、戻しにくい
パート・アルバイト時間数の調整がしやすい。一定の要件で社会保険の加入義務あり
業務委託固定費にならないが、実態が雇用に近いと給与認定のリスク

業務委託については、契約の形だけを整えても実態が雇用に近ければ税務上は給与として扱われます。指揮命令の有無や勤務時間の拘束といった実態で判断されるため、形式だけで判断しないよう注意が必要です。

まとめ

従業員を1人雇うとき、会社が負担するのは給与だけではありません。月給30万円、賞与2か月分という条件なら、社会保険料の会社負担が約63万円、労働保険料が約4万円、これに採用費と環境整備を加えて、初年度は530万円から620万円程度になります。

このうち社会保険料は、給与と賞与の合計の15パーセント程度を目安に置いておけば予算を組めます。金額としては小さくないので、採用の検討段階から織り込んでおく必要があります。

金額に表れない負担として、教育にかかる時間があります。最初の数か月は教える側の時間も取られ、会社全体の生産性は一時的に下がります。余裕がまったくない状態での採用は、この期間を乗り切るのが難しくなります。

そして、人件費は固定費です。売上が下がっても払い続けることになります。固定費が500万円増えると、赤字にならない売上は714万円上がります。この水準に届く見込みがあるかどうかが、判断の分かれ目です。

迷うなら、外注で試してから雇うという順序があります。外注費が毎月継続して発生し、その額が人件費に近づいてきたなら、雇ったほうが安くなる可能性があります。

採用は、会社にとって前向きな決断です。だからこそ、勢いだけで決めずに、数字で確かめてから踏み切ることをおすすめします。判断に迷うところがあれば、顧問税理士に資金と利益の見通しを一緒に確認してもらうとよいでしょう。

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