中小企業の監査役|何をする人か、置く義務があるのかをやさしく整理

監査役とは

「監査役って結局何をする人なのか分からない」「うちは監査役を置かなくてもいいのだろうか」。中小企業の経営者から、こうした声をよくお聞きします。

監査役は、置いている会社でも実質的に何もしていないことが多く、置いていない会社では話題にもならない。そんな存在になりがちです。ただ、会社法上の位置づけを知らないまま放置していると、思わぬところで困ることがあります。

この記事では、監査役とはどういう役割なのか、自社に設置義務があるのか、置く場合に何を気をつけるべきかを、できるだけかみ砕いて整理していきます。

目次

監査役は何をする人か

監査役をひとことで言えば、取締役の仕事をチェックする人です。社長や取締役が会社のお金を私的に使っていないか、法令に違反していないか、決算書がきちんと作られているかを見る役割を担います。

チェックの中身は、大きく2つに分かれます。

種類見るもの
業務監査取締役の仕事のやり方。法令や定款に違反していないか、不当な取引をしていないか
会計監査決算書や帳簿。数字が正しく作られているか

ここで押さえておきたいのは、監査役は経営の善し悪しを判断する人ではないという点です。「その投資は儲かるのか」といった経営判断の中身に口を出す立場ではなく、「その判断の進め方に法令違反や手続きの不備がないか」を見るのが本来の役割です。

監査役に与えられている権限

役割を果たすために、監査役にはいくつかの権限が与えられています。

権限内容
報告を求める権限取締役や従業員に事業の報告を求められる
調査する権限会社や子会社の業務や財産の状況を調べられる
差止めを求める権限取締役が違法な行為をしようとしているとき、やめるよう求められる
取締役会を招集する権限必要があれば取締役会を招集できる

権限があるということは、裏を返せば果たすべき責任もあるということです。この点は後ほど触れます。

自社に監査役が必要かどうかの見分け方

会社法では、監査役を置くかどうかは原則として会社の自由です。ただし、いくつかのパターンでは設置が義務になります。

自社がどれに当てはまるかを、順番に確認していきましょう。

会社の状況監査役
取締役だけを置いている(取締役会なし)置かなくてよい
取締役会を置いている原則として必要(会計参与を置く場合は不要)
大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)必要
会計監査人を置いている必要
株式に譲渡制限がなく、大会社でもある監査役会(3名以上)と会計監査人が必要

中小企業の大半は、いちばん上か2番目に当てはまります。

取締役会を置いているかどうかが分かれ目

実務上いちばん重要なのは、取締役会を置いているかどうかです。

取締役会を置いている会社では、重要な意思決定が取締役会に集まり、株主が直接口を出せる範囲が狭くなります。その代わりに、株主に代わって取締役を監視する存在が必要になる。だから監査役の設置が求められるという仕組みです。

逆に、取締役だけで運営している会社は、株主が直接取締役をチェックできる建前になっているため、監査役を置かなくても問題ありません。

自社がどちらなのかは、登記事項証明書を見れば分かります。「取締役会設置会社」という記載があるかどうかを確認してみてください。

大会社に当てはまるかどうか

大会社とは、資本金が5億円以上か、負債の合計が200億円以上の会社です。中小企業でこの基準に当てはまることはまれですが、資本金を大きく積んでいる会社は一度確認しておくとよいでしょう。

昔から監査役がいる会社の注意点

ここは意外と知られていない論点です。

創業から長い会社や、有限会社から株式会社に移行した会社では、定款に特別な記載がなくても、監査役の監査の範囲が会計に限定されているものとして扱われている場合があります。

該当しやすいのは次のようなケースです。

ケース扱い
2006年4月以前に設立され、資本金1億円以下で株式に譲渡制限がある会社定款に定めがなくても、監査の範囲が会計に限定されているものとみなされる
有限会社から移行した特例有限会社で、監査役を置く定めがある会社同様に、会計に限定されているものとみなされる

つまり、古くから監査役がいる中小企業では、その監査役は業務監査までは担っていない、という整理になっていることが多いのです。自社の位置づけが分からない場合は、定款と登記事項証明書を見比べて確認しておくと安心です。

会計限定監査役という選択肢

株式に譲渡制限がある会社であれば、定款に定めを置くことで、監査役の仕事を会計監査だけに絞ることができます。これを会計限定監査役と呼びます。

項目通常の監査役会計限定監査役
監査の範囲業務監査と会計監査の両方会計監査のみ
取締役会への出席出席義務がある出席義務はない
責任の範囲広い狭くなる

同族会社で親族を監査役にする場合は、この会計限定にしておくのが一般的です。業務監査まで担うことにすると責任が重くなりすぎるためです。

なお、会計限定にするには定款の定めが必要で、登記も必要になります。「実質的に会計だけ見てもらっている」という運用実態があるだけでは、会計限定にはなりません。

監査役になれる人、なれない人

誰でも監査役になれるわけではありません。とくに中小企業でつまずきやすいのが兼任の制限です。

監査役になれない人
その会社の取締役
その会社の従業員
その会社の会計参与
子会社の取締役・従業員・執行役・会計参与

チェックする人とされる人が同じでは意味がないため、社内の人間との兼任が禁じられています。従業員を監査役にする場合は、従業員としての立場を退く必要があります。

一方で、親会社の取締役が子会社の監査役を兼ねることは可能です。

親族を監査役にする場合

社長の配偶者や親族を監査役にしている会社は少なくありません。会社法上これは禁じられていませんし、実務としてもよくあるかたちです。

ただし、名前を貸すだけという感覚でいると危うい面があります。監査役は会社に対して善管注意義務を負っており、職務を怠って会社に損害が生じた場合には責任を問われることがあります。会計限定監査役であっても、帳簿の信頼性に疑いを持つべき事情があるときには調べる義務があるとされています。

現実には、監査役の責任が問われる場面は多くありません。とはいえ、従業員による不正な経理処理が長期間見逃されていたようなケースでは、論点になり得ます。就任してもらうときには、形式だけの役職ではないことを本人に伝えておくほうが誠実です。

選任の手続きと任期

監査役を置くことにした場合の手続きを確認します。

選任の流れ

手順内容
1定款に監査役を置く旨を定める(定めがない場合は定款変更が必要)
2株主総会で選任を決議する
3本人の就任承諾を得る
4就任後2週間以内に登記する

監査役は登記事項なので、就任・退任・重任のいずれも登記が必要です。任期満了後にそのまま続けてもらう場合も、重任の登記を忘れないようご注意ください。

任期は4年、譲渡制限がある会社なら最長10年

監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度についての定時株主総会が終わるときまでです。取締役より長く設定されているのは、経営から一定の距離を保てるようにするためです。

株式に譲渡制限がある会社であれば、定款で最長10年まで伸ばすことができます。登記の手間を減らしたい中小企業では、10年に設定しているケースが多くあります。

報酬の決め方

監査役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。取締役の報酬とは別枠で決める必要があり、取締役の報酬総額の中から配分するという扱いはできません。

金額の水準に法律上の決まりはありません。実際の職務の内容に見合った金額にしておくことが、税務上の説明のしやすさにもつながります。

監査役を置くかどうかをどう考えるか

設置義務がない会社にとって、監査役を置くかどうかは経営判断です。判断材料を整理します。

置くことで得られるものとしては、次のような点が挙げられます。

置くことで得られるもの
経理の不正やミスに気づく仕組みができる
金融機関や取引先に対して、体制が整っている印象を持ってもらいやすい
将来の上場や事業承継を見据えた土台になる
社長以外の視点が入ることで、判断の独りよがりを防げる

一方で、負担も生じます。

気をつけたい点
報酬と社会保険の負担が増える
就任・退任のたびに登記の手間と費用がかかる
形式だけの設置では効果がなく、本人に責任だけが残る

規模がまだ小さく、社長がすべての取引を把握できている段階では、監査役を置く実益は限られます。従業員が増えて経理を任せるようになった段階や、金融機関との取引を広げていく段階で、あらためて検討する価値が出てきます。

まとめ

監査役は、取締役の仕事をチェックする役割を担う機関です。見る対象は業務監査と会計監査の2つに分かれますが、経営判断の中身の善し悪しを判断する立場ではない、というところが理解の出発点になります。

設置義務があるかどうかは、取締役会を置いているかどうかでほぼ決まります。取締役だけで運営している会社なら置かなくてよく、取締役会を置いているなら原則として必要です。自社がどちらなのかは、登記事項証明書の記載で確認できます。

長く続いている会社や有限会社から移行した会社では、定款に記載がなくても監査の範囲が会計に限定されているものとして扱われている場合があります。自社の監査役がどういう位置づけなのか分からないという方は、定款と登記を一度突き合わせてみることをおすすめします。

親族を監査役にしている場合、名前だけという感覚になりやすいのですが、監査役は会社に対して責任を負う立場です。責任の範囲を絞りたいなら会計限定にするという方法があり、そのためには定款の定めと登記が必要になります。運用実態だけでは会計限定にならない点にご注意ください。

設置義務がない会社にとっては、監査役を置くかどうかは経営判断です。経理を人に任せるようになった、金融機関との取引を広げたい、将来の事業承継を考え始めた。こうしたタイミングが検討の目安になります。機関設計は一度決めると変えるのに手間がかかる部分なので、迷ったときは登記の前に専門家に相談してみてください。

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