登記は、会社を作るときに一度やったきりという方が少なくありません。それ以降は、住所も役員も変わらなければ何もしなくてよい。そう思っていると、思わぬところでつまずきます。
役員は、変わらなくても任期が来ます。同じ人が続けるだけでも登記が必要です。これを知らずに放置していると、代表者個人に過料が科され、最悪の場合は会社が解散したものとして扱われます。
この記事では、登記を放置すると何が起きるのか、いつまでに何をすればよいのかを整理します。
役員は変わらなくても任期が来る
いちばん見落とされているのが、ここです。
役員には任期があります。取締役は原則2年、監査役は原則4年です。株式に譲渡制限がある会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます。
任期が満了すると、同じ人が続ける場合でも改めて選任の手続きが必要になり、その旨を登記しなければなりません。これを重任登記と呼びます。
| 状況 | 登記 |
|---|---|
| 役員が交代した | 必要 |
| 役員が増えた・減った | 必要 |
| 同じ人が続ける(重任) | 必要 |
| 何も変わらず、任期も来ていない | 不要 |
「うちは社長ひとりで、ずっと変わっていないから登記も要らない」という理解は、正しくありません。変わっていなくても、任期のたびに登記が必要です。
登記の期限は、選任され就任を承諾して効力が生じた日から2週間以内です。
なお、特例有限会社(会社法の施行前からある有限会社)と、合同会社などの持分会社には役員の任期がありません。役員が交代しない限り、重任登記は発生しないことになります。
放置すると代表者個人に過料が科される
登記を怠ると、過料の対象になります。裁判所から代表取締役宛てに通知が届きます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上限 | 100万円 |
| 実務上の相場 | 2万円から5万円程度 |
| 長期に放置した場合 | 10万円程度になることも |
| 誰が払うか | 代表取締役個人 |
金額もさることながら、押さえておきたいのは払う人です。会社への罰金ではなく、代表取締役個人に対する制裁なので、会社の経費にできません。個人の財布から出すことになります。
金額は、放置していた期間の長さなどを考慮して裁判官が決めます。明確な基準は公表されていません。
12年放置すると会社が解散扱いになる
過料よりも重いのが、みなし解散です。
株式会社で最後の登記から12年が経過している会社は、法務大臣による官報公告が行われ、2か月以内に届出か登記の申請がなければ、解散したものとみなされて登記官が職権で解散の登記を入れます。
12年という期間には理由があります。取締役の任期は定款で伸ばしても最長10年なので、事業を続けている会社なら少なくとも10年に一度は登記の機会があるはずだからです。それに2年の猶予を足したのが12年です。
この整理作業は毎年実施されています。対象になると、登記簿に届いている住所へ法務局から通知書が送られます。
| 法人の種類 | みなし解散の対象 |
|---|---|
| 株式会社(特例有限会社を除く) | 最後の登記から12年 |
| 一般社団法人・一般財団法人 | 最後の登記から5年 |
| 特例有限会社、合同会社などの持分会社 | 対象外 |
対象外とされているのは、いずれも役員や社員に任期がなく、長期間登記がないことをもって実体がないとは言えないためです。法務省が公表している休眠会社の整理作業の案内でも、対象となる休眠会社は株式会社であり特例有限会社は含まれない旨が明記されています。
ただし、対象外だから登記を放置してよいという話ではありません。役員が交代したときや本店を移転したときの登記は必要で、怠れば過料の対象になります。次に述べる実務上の影響も同じように受けます。
通知が届いたらどうするか
期限内に動けば、解散は避けられます。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| まだ事業を廃止していない旨の届出 | 通知に同封の書面を返送する |
| 必要な登記を申請する | 役員変更登記など |
どちらかを2か月以内に行えば、みなし解散にはなりません。ただし、届出だけで済ませても登記の懈怠自体は解消されないため、いずれ登記は必要になります。
解散の登記が入ってしまったら
みなし解散の登記後も、3年以内であれば会社を継続できます。株主総会の特別決議で継続を決議し、継続の登記を申請します。
ただし、解散から継続までの間は通常の事業活動ができない状態になります。3年を過ぎると継続はできず、清算手続きに進むことになります。
過料より怖い実務上の影響
金額の問題以上に困るのが、日常業務が止まることです。
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 許認可の更新 | 建設業や産業廃棄物収集運搬業などでは、役員の登記が最新であることが求められる。放置していると更新申請が受理されない |
| 融資の申込み | 金融機関は登記事項証明書を確認する。登記が古いと管理体制を疑われる |
| 補助金の申請 | 登記事項証明書の提出を求められることが多い |
| 取引先の与信審査 | 新規取引の開始時に確認される |
| 不動産の売買・賃貸借 | 契約時に登記事項証明書が必要になる |
いずれも、必要になってから慌てて登記しても、完了まで1週間から2週間かかります。その間、手続きが止まります。
みなし解散の登記が入っている状態では、これらの場面はさらに厳しくなります。登記簿に解散と記載されている会社と、新たに取引を始める相手は多くありません。
任期を10年にすることの落とし穴
登記の手間を減らすために、定款で役員の任期を10年に設定している中小企業は多くあります。登記の回数が減り、費用も抑えられるので、合理的な選択に見えます。
ただ、10年に設定すると別の問題が出てきます。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 忘れやすくなる | 10年前のことを覚えている人は少ない |
| 通知が来ない | 任期満了を知らせてくれる仕組みはない |
| 役員を辞めさせにくい | 任期途中の解任は損害賠償請求のリスクがある |
| みなし解散に近づく | 10年に一度しか登記しないため、少し忘れると12年に届く |
とくに最後の点は見落とされがちです。任期10年の会社が重任登記を2年忘れると、そのまま12年に到達します。
役員が社長と親族だけという会社なら10年でも支障は少ないのですが、外部から役員を迎える可能性があるなら、2年から4年程度にしておくほうが柔軟です。
自社の状態を確かめる方法
まずは、最後にいつ登記したかを確認します。
登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を取得すれば、役員欄に就任日と重任日が記載されています。法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できます。
確認する点は3つです。
| 確認すること | 見るところ |
|---|---|
| 最後の登記はいつか | 役員欄の日付、その他の変更の日付 |
| 役員の任期はいつまでか | 定款の役員任期の条項と、登記上の就任日 |
| 12年に近づいていないか | 最後の登記から現在までの年数 |
定款が手元にない、あるいはどこにあるか分からないという会社も少なくありません。設立時の書類一式を保管している場所を確認し、見当たらなければ司法書士に相談します。
登記が必要になる主な場面
役員の重任以外にも、登記が必要になる場面があります。
| 変更 | 登記の期限 |
|---|---|
| 役員の就任・退任・重任 | 2週間以内 |
| 本店の移転 | 2週間以内 |
| 商号の変更 | 2週間以内 |
| 事業目的の変更 | 2週間以内 |
| 資本金の増減 | 2週間以内 |
| 代表取締役の住所変更 | 2週間以内 |
代表取締役が引っ越したときの住所変更は、忘れられやすい項目です。会社の本店が変わっていなくても、代表者個人の住所は登記事項なので変更が必要になります。
なお、令和6年10月から、代表取締役等の住所を登記事項証明書上で非表示にできる制度が始まっています。プライバシーの観点から検討する価値がありますが、金融機関の手続きなどで支障が出る場合もあるため、利用の可否は個別に判断することになります。
まとめ
役員は、変わらなくても任期が来ます。同じ人が続ける場合でも重任の登記が必要で、選任から2週間以内という期限があります。ここを知らずに放置している中小企業は、実際に少なくありません。
放置すると、代表取締役個人に過料が科されます。実務上の相場は2万円から5万円程度ですが、会社の経費にできず、個人の負担になります。
さらに、最後の登記から12年が経過すると、みなし解散の対象になります。官報公告後2か月以内に届出か登記をしなければ、登記官が職権で解散の登記を入れます。3年以内なら継続できますが、その間は通常の事業活動ができません。なお、特例有限会社と持分会社は役員に任期がないため、みなし解散の対象からは外れています。
金額よりも実務への影響のほうが深刻です。許認可の更新、融資の申込み、補助金の申請、新規取引の開始。いずれも登記事項証明書が必要になる場面で、古い登記のまま止まってしまいます。
登記の手間を減らすために任期を10年にしている会社は、忘れやすさとみなし解散への近さという別のリスクを抱えることになります。役員構成が固定的でないなら、短めに設定しておくほうが動きやすい面もあります。
まずは登記事項証明書を取り寄せて、最後の登記がいつなのかを確認してみてください。心当たりのある方は、早めに司法書士に相談することをおすすめします。放置期間が長くなるほど、過料の金額も手続きの手間も増えていきます。
