取締役会は、置けば会社の意思決定が整う一方で、開催や議事録の作成といった手間も生まれます。置いていながら開いていない会社では、いざというときに困る場面も出てきます。
この記事では、取締役会とはどういう場なのか、自社に設置義務があるのか、置いた場合に何をしなければならないのかを、順に整理していきます。
取締役会とは何をする場か
取締役会は、会社の重要な意思決定を行う会議体です。同時に、取締役どうしがお互いの仕事ぶりを監視する場でもあります。
社長一人の判断で何でも決められる状態から、複数の取締役で議論して決める状態に移す。それが取締役会を置くということの本質です。
取締役会でなければ決められないこと
取締役会を置くと、次のような事項は取締役会で決めなければならなくなります。代表取締役が一人で決めることはできません。
| 事項 | 具体例 |
|---|---|
| 重要な財産の処分・取得 | 事業用不動産の売買、主要な設備の売却 |
| 多額の借入れ | 会社の規模に照らして大きな金額の融資を受けるとき |
| 重要な使用人の選任・解任 | 支配人、工場長など重要なポストの人事 |
| 支店の設置・移転・廃止 | 営業所を新しく出すとき |
| 代表取締役の選定・解職 | 誰を社長にするか |
| 利益相反取引の承認 | 会社と社長個人の間の売買や貸借 |
| 競業取引の承認 | 取締役が会社と同種の事業を行うとき |
このうち中小企業で特に関係が深いのは、利益相反取引の承認です。会社が社長個人にお金を貸す、社長の持っている不動産を会社が買う、社長個人の借入れに会社が保証をつけるといった取引は、すべてここに含まれます。
取締役会を置いている会社でこうした取引を行うときは、取締役会の承認が必要です。承認を得ずに行った取引は、後々効力が争われる可能性があります。役員貸付金がある会社は、この点を確認しておくとよいでしょう。
自社に設置義務があるかどうか
会社法では、取締役会を置くかどうかは原則として会社の自由です。ただし、次のいずれかに当てはまる場合は設置が義務になります。
| 会社の状況 | 取締役会 |
|---|---|
| 株式に譲渡制限がある(非公開会社) | 原則として任意 |
| 株式に譲渡制限がない(公開会社) | 必要 |
| 監査役会を置いている | 必要 |
| 監査等委員会・指名委員会等を置いている | 必要 |
中小企業のほとんどは、株式に譲渡制限を付けています。定款に「当会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する」といった記載があれば非公開会社なので、取締役会の設置は任意です。
自社が現在どうなっているかは、登記事項証明書に「取締役会設置会社」の記載があるかどうかで分かります。
置くと何がセットで必要になるか
取締役会を置くと、それ単体では終わりません。いくつかのものが連動して必要になります。
取締役が3名以上必要
取締役会は3名以上の取締役で構成します。社長一人、あるいは社長と配偶者の2名という体制では、取締役会を置くことができません。
3人目をどう確保するかが、実務上の最初のハードルになります。名前だけの取締役を置くという選択肢もありますが、取締役は会社に対して責任を負う立場なので、安易に頼むのはおすすめできません。
監査役が原則必要
取締役会を置く会社は、原則として監査役を置かなければなりません。株式に譲渡制限がある会社であれば、監査役の代わりに会計参与を置くという選択も可能です。
つまり、取締役会を置くと最低でも取締役3名と監査役1名、合わせて4名の役員が必要になります。役員報酬と社会保険の負担も、その分増えることになります。
株主総会で決められることが減る
取締役会を置くと、株主総会の権限が縮まります。株主総会で決められるのは、会社法で定められた事項と、定款で定めた事項だけになります。
株主と経営者がほぼ同じ中小企業ではあまり実感がないかもしれませんが、株主が複数いて意見が分かれる会社では、この違いが効いてきます。
運営のルール
ここが実務でもっとも見落とされている部分です。取締役会を置いたら、次のルールに従って運営する必要があります。
3か月に1回以上の開催が必要
業務を執行する取締役は、少なくとも3か月に1回、自分の職務の執行状況を取締役会に報告しなければなりません。つまり、年に4回以上の開催が求められます。
年1回の株主総会に合わせて1回だけ、という運用は要件を満たしていません。
招集の手続き
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 招集通知 | 原則として1週間前まで。定款でこれより短く定めることも可能 |
| 通知の方法 | 書面に限らず、メール・電話・口頭でもよい |
| 通知の内容 | 日時と場所を伝えれば足りる。議題は原則不要 |
| 手続きの省略 | 取締役と監査役の全員の同意があれば省略できる |
中小企業では、定款で招集期間を短くしておくと運用が楽になります。
決議のルール
決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成で成立します。
ここで注意したいのが、特別な利害関係を持つ取締役は議決に加われないという点です。たとえば、会社が社長個人に不動産を売る取引を承認する場面では、社長自身は議決に参加できません。
取締役が3名で、そのうち1名が議決に加われない場合、残る2名で決議することになります。この点を知らずに全員で決議したことにしていると、決議の有効性に問題が生じます。
議事録の作成と保存
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作成 | 書面または電磁的記録で作成する |
| 署名・押印 | 出席した取締役と監査役が署名または記名押印する |
| 保存期間 | 本店に10年間備え置く |
議事録は、後から「この決定はいつ、どういう理由で行われたのか」を示す唯一の証拠になります。作成を後回しにしていると、必要になったときに再現できません。
また、議事録に異議を記載しなかった取締役は、その決議に賛成したものと推定されます。反対した場合は、その旨を議事録に残しておくことが自分を守ることにつながります。
書面決議という省力化とその限界
毎回全員が集まるのは負担が大きい、という声はよくお聞きします。定款に定めを置いておけば、書面やメールでの決議も可能になります。
| 書面決議の要件 |
|---|
| 定款にその旨の定めがあること |
| 議決に加わることができる取締役の全員が、書面または電磁的記録で同意すること |
| 監査役が異議を述べないこと |
全員の同意が必要なので、意見が分かれる議案には使えません。逆に言えば、方向性が固まっている案件の手続きを簡略化する手段として有効です。
ただし、ここに大きな注意点があります。取締役の職務執行状況の報告は、書面で済ませることができません。したがって、書面決議を活用しても、最低でも3か月に1回は実際に取締役会を開催する必要があります。
なお、担当者が取締役を順番に回って賛否を集める、いわゆる持ち回りでの決議は無効とされています。書面決議を使うなら、定款の定めを整えたうえで行う必要があります。
形骸化している会社に起こること
登記簿には取締役会設置会社と書かれているのに、実際には開催も議事録の作成もしていない。中小企業ではよくある状態です。
ただ、この状態には次のような弱点があります。
| 場面 | 起こりうること |
|---|---|
| 金融機関からの借入れ | 多額の借入れについて取締役会議事録の提出を求められ、後から作ることになる |
| 事業承継やM&A | 買い手側の調査で、過去の重要な決定に手続きの不備が見つかる |
| 許認可の申請・更新 | 議事録の提出を求められる |
| 登記の申請 | 代表取締役の変更などで取締役会議事録が必要になる |
| 株主とのトラブル | 手続きを踏んでいないことが争点になる |
「必要になったときに遡って作る」という対応をしている会社も見かけますが、日付や出席者の整合性が取れなくなりやすく、かえって手間がかかります。年4回、30分でもよいので実際に集まって議事録を残すほうが、結果として楽です。
置くかどうかをどう考えるか
設置義務がない会社にとっては、置くかどうかは経営判断です。
置く意味が出てくる場面としては、次のようなものが挙げられます。
| 置く意味が出てくる場面 |
|---|
| 株主が複数いて、意思決定のルールを明確にしておきたい |
| 外部から役員を招き、経営に第三者の視点を入れたい |
| 事業承継を控えていて、後継者を含む合議体で決める体制に移したい |
| 金融機関や取引先に対して、意思決定の体制を示したい |
| 将来の上場を視野に入れている |
逆に、社長がほぼ単独で意思決定しており、株主も社長とその家族だけという段階では、置いても形式だけになりがちです。その場合は無理に置かず、取締役の過半数で意思決定するかたちで運営するほうが実態に合います。
設置と廃止の手続き
置く場合も、やめる場合も、定款の変更が必要です。
| 内容 |
|---|
| ①株主総会の特別決議で定款を変更する |
| ②必要な役員(取締役3名以上、監査役など)を選任する |
| ③2週間以内に登記する |
すでに取締役会設置会社になっていて、実態に合わないのでやめたいという場合も、同じく定款変更と登記が必要です。放置していても自動的になくなることはありません。
なお、取締役会をやめると監査役の設置義務もなくなりますが、監査役を続けるかどうかは別に判断できます。
まとめ
取締役会は、会社の重要な意思決定を複数の取締役の合議で行う場です。置くと、重要な財産の処分、多額の借入れ、代表取締役の選定、そして会社と社長個人の間の取引の承認といった事項が、取締役会の決議事項になります。役員貸付金や社長所有の不動産の売買がある会社は、この承認手続きを踏んでいるかを確認しておくと安心です。
設置義務があるかどうかは、株式に譲渡制限があるかどうかでほぼ決まります。譲渡制限を付けている中小企業であれば、置くかどうかは自由です。自社の現状は登記事項証明書で確認できます。
置く場合は、取締役3名以上と原則として監査役1名が必要になり、運営面では3か月に1回以上の開催と議事録の作成が求められます。書面決議で手続きを簡略化することはできますが、職務執行状況の報告は書面では代えられないため、実際の開催をゼロにすることはできません。
登記簿に取締役会設置会社と書かれているのに開催していない会社は、借入れや事業承継、許認可の場面で議事録の提出を求められて困ることがあります。実態に合わせて運営を整えるか、あるいは取締役会をやめる方向で定款を変更するか、どちらかに寄せておくほうが後々の負担は軽くなります。
機関設計は、一度決めると変えるのに株主総会の特別決議と登記が必要になる部分です。自社の現状が実態に合っているか気になる方は、専門家に相談してみてください。
