はじめに:インボイス制度の「第2フェーズ」が始まった
2023年に始まったインボイス制度ですが、早くも大きな転換期を迎えています。
最新の「令和8年度税制改正大綱」により、当初予定されていたスケジュールが大幅に変更されました。ニュースでは「負担が緩和された」と報じられていますが、手放しで喜べるのは一部の企業だけです。
特にこれから起業する方や、売上1,000万円以下の小規模法人の経営者にとっては、むしろ「これまで以上に慎重な判断」が求められる内容になっています。
インボイス制度のおさらい:なぜ「登録」で悩むのか?
インボイス制度を極めてシンプルに言うと、「取引先が消費税の控除を受けるために、貴社に『登録番号入りの請求書』を発行してほしいと頼む制度」です。
- 登録すると: 取引先は喜ぶが、貴社は免税特権を捨てて消費税を納税しなければならない。
- 登録しないと: 貴社は免税のままでいられるが、取引先は「貴社に払った消費税」を国に納める税金から差し引けず、実質的なコスト増になる。
この「自分と取引先、どっちが税金を被るか?」というジレンマが、経営者の悩みどころです。
【最新改正】「5割」が消えて「7割」が登場?緩和措置の正体
もともとの法律では、2026年10月から免税事業者からの仕入れに対する控除は「5割(50%)」に下がる予定でした。しかし、これが以下のように変更(激変緩和の延長)されました。
| 期間 | 改正前(旧) | 改正後(最新) |
| ~ 2026年9月末 | 80%控除 | 80%控除 |
| 2026年10月 ~ 2028年9月末 | 50%控除 | 70%控除(※新設) |
| 2028年10月 ~ | 0%へ段階的縮小 | 50%→30%と緩やかに縮小 |
一見、法人にとっても「外注先(免税)からの仕入れコスト増が抑えられてラッキー」に見えます。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
簡易課税ユーザーには「7割控除」は1円も関係ない
ここが本質です。もし貴社が「簡易課税」(売上の一定率を納税する方式)や、現在多くの新設法人が使っている「2割特例」を選択しているなら、この「7割控除」というニュースは、貴社の納税額には一切関係ありません。
簡易課税は「売上」から納税額を決めるため、仕入先がインボイス業者だろうが免税事業者だろうが、貴社の納税額は1円も変わらないからです。
法人だけが置いてけぼり?「3割特例」の除外リスク
さらに深刻なのが、納税する側の救済策である「2割特例」のその後です。
個人事業主には、2割特例が終わった後も納税額を売上の30%に抑える「3割特例」が新設されます。しかし、法人はこの対象から外れる見込みです。
- 個人事業主: 2割特例(3年) → 3割特例(2年) → 簡易・本則へ
- 法人: 2割特例(令和8年9月末を含む期まで) → いきなり「簡易課税」等へ
法人の場合、2割特例が終わった瞬間に、納税額が売上の20%から、50%(サービス業)~80%(小売業)へと、一気に2.5倍~4倍に跳ね上がる可能性があります。
インボイス登録「するか・しないか」最新チェックリスト
「7割控除の延長」という甘い言葉に惑わされず、法人の経営者は以下の基準で判断してください。
そもそも2年前の売上が1000万円超であれば、インボイス登録しなくても消費税の納税が必要なので、インボイス登録をしない理由がなくなり、事実上必須です。
創業時や2年前の売上が1000万円以下の場合での登録基準は次の通りです。
- ✅ 登録すべきケース:
- 主要な取引先が規模が大きい法人である: 取引先の控除が70%に下がるため、未登録だと価格交渉で不利になる可能性がある。
- 法人の新規取引開拓を優先する: 大手との新規取引において、番号の有無が足切りラインになる場合。
- ✅ 登録を「待つ・しない」ケース:
- 一般消費者(BtoC)がメイン: 相手が控除を気にしないなら、免税のままキャッシュを残すのが正解。
- 取引先が「簡易課税」である: 相手も簡易課税なら、あなたが登録していなくても相手の税負担は増えません。
- 「3割特例」が使えない痛みを計算した結果: 納税額が増えるくらいなら、未登録のままで手を打つ方がマシな場合。
まとめ:法人の「出口戦略」は税理士とシミュレーションを
「ニュースで緩和されたと言っていたから、とりあえず登録しておこう」という安易な判断は、法人の場合、数年後にキャッシュフローを圧迫する毒薬になりかねません。
特に2割特例が終わる「令和8年」を見据えて、「簡易課税への切り替えタイミング」や「あえて個人事業主のまま3割特例を使い切ってから法人化する」といった戦略的な判断が必要です。
